初のフラッシュバック 2008年11月2日 2時AM
自分が万引きしたという False Memoryを植えつけられたことがあるという話をBassamにしていた直後のことだった。
いつのどの殴られた記憶なのかはさだかじゃない。でも初めてのときでもなければさいごの時でもなかったのはたしか。中学生の時だったと思う。めぐみさんがハイチかどこか南国の島に旅行に行ってかえってきた日のできごとだった。
い つもめぐみさんが長期どこかにいって帰ってくる日は朝から胃の調子が悪くなっていた。ふつうに過ごしているつもりでもめぐみさん不在の間わたしがおかした かも知れない小さな罪たちが大罪となってめぐみさんの耳に入り、それに対しての罰をわたしは毎回めぐみさんが帰ってきた日に受けるのが恒例になっていたた めだ。今回は平野さんが、それか大和田さんが、それとも健二君がいったい何をめぐみさんにつたえるのだろう。めぐみさんが居ない間いつも緊張している糸が ゆるんでいるのが彼女の帰宅ともにいきなり無理やり引っ張られるためそのギャップと罰への恐怖から朝から胃が何かを予知しているかのようにわたしの中で暴 れまくる。何かがおきるぞとおどしている。
その日もそんな胃の反乱を抱えながら学校から自転車で帰ってきた。
渡船所の窓の外から めぐみさんが中にいるのが見えた。南国から帰ってきたばかりなのが一目瞭然に肌は黒く焼けていて長くて黒い髪は編みこまれて髪の先にはピンクや赤や黄色の とりどりのプラスチック製のビーズがついていた。めぐみさんの表情は暗かった。その表情を見た瞬間、わたしの胃がまた一層騒ぎ始めた。
わ たしが中に入った瞬間、めぐみさんの形相が鬼のようになったように一瞬見えた。’おまえちょっとこっちこい’ とわたしに渡船所の裏の小屋にくるように命 じた。めぐみさんの後をついていくといきなり髪をひっぱられて床に倒された。ニスの塗られたヒノキの濃い木の色をした床がものすごい速さでわたしの目の前 に近づいてきた。’お前 あたしがいない間にずいぶん調子に乗ってたんだってな’ 髪の毛をひっぱられて床の上を引きずりまわされた。一瞬周りにおいて あったものとそのニスのきいたヒノキの床が回転した。
いったいどれくらいつづいたのか、そのあとどんなことをされたのかは憶えていない。 でもくるくる視界が回っていたのを憶えてる。めぐみさんの髪についたビーズがぴょんぴょんと飛び跳ねる。黄色やピンクや赤色のビーズがわたしのことなんて どうでもいいように躍動していた。わたしはもうなにも感じていなかった。
お母さんを呼んだ。
お母さんをよんだ。
でもだれも返事をしなかった。
False Memory
あ る朝大平さんの店に行った。 パンツとオーバーオールを買ったんだと思う。あさ一番の客だったため、わたし以外に客はいなかった。わたしは前から大平さん が嫌いだった。いないといいなと思っていたがやっぱりいた。「おはようございます」と言って、私はほしいものを手にとってそれ以上会話が続かないようにレ ジへ向かい、そのレジの人にお金を払って帰ってきた。
2,3日後、大平さんがうちにやってきた。「麻衣子ちゃんがうちで万引きをした」 「麻衣子ちゃん、ぼくを見たとき目をあわそうとしなかったから怪しいなと思って調べたら、商品も減ってるし、レジの人も麻衣子ちゃんがレジに来てないといった。」
わ たしは’レシートの控えがレジにあるはずなのでそれを調べてください’と即座に言った。わたしはこれから起こるかもしれない事態に怯えていた。家の人はわ たしを信じてくれるはずがない。なんとしてでもこの言いがかりをはっきりさせないとならなかった。でも大平さんは何時間か後に帰ってきて、控えは無かった といった。
まことちゃんにたたかれたのを憶えている。ひでくんもいた。渡船所の中のカウンターの前だった。夕方くらいだったのか、電気が ついていたのも憶えてる。ここの床もカウンターもニスのきいた濃い色のヒノキだった。そのカウンターの前で正座をしていた。’まんびきしたんだろ’と 誠 ちゃんはいう。わたしは’やっていない’と答えた。’やったんだからやったって言え’ やっていないと言うたびにたたかれた。どういうふうに叩かれたのか は憶えていない。平手だった気がする。痛かったのかも憶えていない。ただその場にいる自分がすごく恐ろしかった。これからどうなるのか分からない恐怖感 と、まだその場に平野さんや大和田さん、そしてめぐみさんがいないことにわたしはホッとする微妙な安心感を感じていた。何分間かそういう状態が続いたあ と、大平さんの店に連れていかれて、このカートから商品を取ってこのルートを歩いてここで大平さんに会ってこの出口から出て行った、と説明された。大平さ んがわたしは絶対に盗ったと言った。家に帰るとめぐみさんがわたしが盗ったと認めるまで殴り続けると言った。だれに殴られたか憶えていない。でもわたしが お金を払った証拠はどこにも無かった。みんなが私は万引きしたと言った。わたしのお金を払ったという記憶もよく分からなくなっていた。細かく説明された 盗った説の話がだんだんと本当のように思えてきていた。自分もだんだんわたしは万引きをしたのかもしれないと自分を疑いはじめていた。体のいたるところが 痛みはじめてきた。この仕打ちはわたしがその罪を認めれば終わるんだと思いはじめると、自分が信じ始めてきた万引きをした ’記憶’ のほうが真実味を帯 びてきたのをはっきりと感じた。わたしは万引きしたと言った。’やっぱりな、言ったとおりだ。 ’なんですぐに認めないの?’ ’なんでうそばっかりつく の?’’なんでそんなにてこずらすの?’ と言うたびまた殴ってきた。でもだれだったかは憶えていない。誠ちゃんだったような、でも平野さんだったかもし れない。
ひととおり終わった。自分の記憶もよくわからなくなっていた。でもやっぱり自分はとったんだろうと思い始めていた。
夜中布団のなかでまた考えていた。自分を信じたかった。一生懸命考えた。自分だけは自分を信じてあげたかった。
いや、やっぱりわたし盗ってない。盗ってない。信じてもらえないのか。でもこのままだとわたしはずっと万引きをしたと思われ続ける。わたしの事実が記憶とともにゆがんでいく。
外に出てみた。船長とめぐみさんの部屋には電気がついていた。
船長に話があると言った。
’わたし やっぱり盗ってないの。絶対にとってないの。大平さんにもう一回レジ調べてっていってほしい。’
次の日、大平さんがやっぱりレジにレシートの控えがあったと言ってきた。麻衣子ちゃんにはごめんねと言っておいてと伝えたらしい。
わたしはすごくうれしい気持ちでいっぱいだったのを憶えている。